
Bettor living through Polymarket
- ポリマーケットが変える賭けの世界——政治も未来も「ベット」の対象に 暗号通貨さえあれば、誰でも未来の出来事に賭けられるプラットフォーム「Polymarket」が、今、アメ...
- [2:15] 浴室から生まれた26歳の億万長者——創業者シェイン・コープランドの野望 Polymarketの創業者シェイン・コープランドは、現在26歳(あるいは27歳)。...
- 彼が目指したのは「予測市場(prediction market)」の構築だ。「人類が現在持つ最も正確なもの」と彼が称するこの仕組みは、群衆の知恵を活用し、人々がお金を賭け...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Today, Explained / Vox
ポリマーケットが変える賭けの世界——政治も未来も「ベット」の対象に
暗号通貨さえあれば、誰でも未来の出来事に賭けられるプラットフォーム「Polymarket」が、今、アメリカで急速に存在感を増している。スポーツから政治、国際紛争に至るまで、あらゆる事象に「オッズ」がつけられ、億単位の金が動くこの市場は、2024年の大統領選挙でその的中率の高さを証明し、一躍脚光を浴びた。本エピソードでは、ホストのNoel Kingが、ニューヨーク・マガジンのフィーチャーライターJen VietchnerとテックコラムニストJohn Hermanを迎え、このプラットフォームの成り立ちから法的なグレーゾーン、そして民主主義への影響までを掘り下げている。会話のトーンは、好奇心と警戒心が入り混じった、知的でスリリングなものだ。
浴室から生まれた26歳の億万長者——創業者シェイン・コープランドの野望
Polymarketの創業者シェイン・コープランドは、現在26歳(あるいは27歳)。NYUにたった1学期通っただけで中退し、ニューヨークのロウアー・イースト・サイドにある自宅の浴室にこもって、このプラットフォームを構築し始めた。Jen Vietchnerによれば、彼は「人生で出会う中で最も自信過剰で確信に満ちた人物」であり、マーク・ザッカーバーグやトラビス・カラニックといった伝説的起業家たちの注釈を執拗に書き写し、彼らを研究し模倣することで、「次の億万長者になる」という野心をひたすら追い求めてきたという。
彼が目指したのは「予測市場(prediction market)」の構築だ。「人類が現在持つ最も正確なもの」と彼が称するこの仕組みは、群衆の知恵を活用し、人々がお金を賭けることで、政治やスポーツ、ポップカルチャーに至るまで、あらゆる結果の確率を浮き彫りにする。単なる議論ではなく、「口に出す以上に、実際に人々が何を信じているか」を可視化する——これがPolymarketの核心だ。
バイデン討論会が証明した「予測市場の優位性」
Polymarketが注目を集める決定的な転機となったのは、2024年の大統領選挙におけるジョー・バイデン大統領の討論会パフォーマンスだった。討論会後、CNNやニューヨーク・タイムズはバイデンの年齢に関する懸念を報じたものの、現職大統領が選挙のわずか数カ月前に撤退するとは誰も考えていなかった。ところがPolymarketでは、バイデンの撤退確率が即座に高騰し、多くの人を驚かせた。そして、その予測は的中したのだ。
Vietchnerはこれを「Polymarketが本質的にそのニュースを少し早く掴んでいた」と表現する。この出来事を皮切りに、プラットフォームは2024年選挙に向けて爆発的な勢いで成長。選挙戦の最終盤には、CNNやニューヨーク・タイムズが「接戦」と報じる中、Polymarketはドナルド・トランプの勝利確率をほぼ100%と表示していた。結果的に、この予測もまた的中した。
VPNを使って20ドルで体験した「違法な賭け」
興味深いのは、Vietchner自身が取材のためにPolymarketを実際に試したエピソードだ。問題は、Polymarketがアメリカ国内のユーザーには原則として利用できないこと。彼女はVPNを使ってスペインからアクセスしているように偽装し、20ドルを入金。「エイドリアン・ブロディはオスカーを獲るか」といった些細な賭けに参加したという。賭けが成立すると画面に紙吹雪が舞い、一瞬で20セントほど儲かったりしたが、結局アカウントは停止され、50セントほどを失っただけだった。
この「ちょっとした楽しさ」こそが、プラットフォームの魅力の一端を物語っている。しかし同時に、この体験は法的なグレーゾーンを浮き彫りにした。Polymarketは2020年のローンチ直後から、米商品先物取引委員会(CFTC)の調査対象となっていた。同業のKalshiがCFTCのライセンスを取得し厳しい制約の下で運営しているのに対し、Polymarketは「分散型ブロックチェーンプラットフォーム」であることを盾に、許可を得ずにサービスを開始したのだ。
創業者シェインはこの姿勢を「許しを乞う方が、許可を得るより易しい」と表現し、法律違反を問われると「どの法律が問題なのか」と反論する。結局、CFTCとの和解金として140万ドルを支払い、米国ユーザーを排除することを約束したが、それでもVPNを使った回避策は後を絶たなかった。
スポーツ賭博の二の舞?——政治に浸食する「ファンダム」と「賭け」の危険な融合
John Hermanは、スポーツ賭博がかつて経験した「汚染」が、今まさに政治の世界で起きようとしていると警告する。スポーツでは、賭博の浸透によって「スポーツマンシップ」や「チームの勝利」といった価値観が後退し、ファンは試合を純粋に楽しむのではなく、オッズやベットの結果に一喜一憂するようになった。同じことが政治にも起これば、有権者は政策や理念ではなく、「誰が勝つか」という予測に没頭する存在に変わる危険性がある。
Hermanは「政治をファンダムとして見る人々」の存在を指摘する。トランプ支持者の一部が「MAGA」や「ストーム」といったレトリックに熱狂する様子は、スポーツファンが自チームを応援する姿と奇妙に似ている。そしてPolymarketやKalshiでは、まさにそうした「ファン」たちが、政治を「賭けの対象」として消費している。
「これは有権者を投票者ではなく、投機家に変えてしまう」とHermanは警鐘を鳴らす。民主的なプロセスから離れ、市場のプロセスに没入することは、政治からの「出口」に他ならない。
暗黒のシナリオ——暗殺市場と「情報の非対称性」
議論はさらに深刻な領域に踏み込む。Noel Kingが「もし誰かが1000万ドルを賭けて、候補者が暗殺されることに賭けたら?」と問いかけると、Hermanは「それは予測市場の初期から存在した思考実験だ」と応じる。実際、誰かがPolymarketやKalshiの賭けを「実現」させるために事件を起こす可能性は、完全には否定できない。プラットフォーム側は禁止条項を設けているが、現実の世界でそれを完全に防ぐことは難しい。
さらに深刻なのは、「情報の非対称性」を利用した不正の温床となる可能性だ。トランプ家系は、世界で最も重要な非公開情報にアクセスできる立場にある。そして、ドナルド・トランプ・ジュニアがKalshiとPolymarketの両方にアドバイザーとして関わっているという報道もある。「結果を知っている状態で賭けることは、基本的に違法ではない。それが単なる『アドバンテージ』として扱われる」とHermanは指摘する。
コインベースのCEOブライアン・アームストロングが決算説明会の最後に「ビットコイン、イーサリアム、ブロックチェーン、ステーキング、web3——これらの単語を入れておかないと、予測市場の賭けに影響するからね」と冗談を飛ばしたエピソードは、この文化の浸透度を象徴している。もはや冗談で済ませられないほど、予測市場は金融と政治のエコシステムに深く組み込まれつつある。
予測市場に「良い面」はあるのか?——情報集約装置としての可能性
議論の終盤、Noel Kingはあえて逆の問いを投げかける。「政治への関心が低い人々が、賭けを通じて政治に関わるようになる——それは良いことではないのか?」これに対しHermanは慎重な姿勢を示す。「ギャンブルが他の何かへの入り口になるとは思えない。むしろ、他のものがギャンブルへの入り口になるのが普通だ」と述べ、楽観論を退ける。
ただし、彼は予測市場が「情報の集約装置」として持つ価値は認めている。パンデミックや専門家のバイアスに惑わされず、人々が本当に信じていることを金銭的なコミットメントを通じて可視化する——この機能は、従来の世論調査や専門家の予測を補完する可能性を秘めている。しかし、それが「民主主義を強化する」という議論には、強い懐疑心を示した。
まとめ——民主主義か、それとも巨大カジノか
このエピソードが描き出すのは、予測市場というテクノロジーが持つ二面性だ。一方で、群衆の知恵を活用した情報集約の可能性は確かに存在する。他方で、政治を「賭けの対象」にすることで、民主主義の根幹を蝕むリスクも無視できない。特に、トランプ政権下で規制が緩和され、ニューヨーク証券取引所を運営するインターコンチネンタル取引所が20億ドルを投資したことで、Polymarketの企業価値は80億ドルに達した。アメリカ市場への本格参入が目前に迫る今、このプラットフォームは単なる「遊び」の領域を超え、金融と政治の境界を曖昧にする存在へと変貌しつつある。
リスナーに残るのは、「もし誰もが政治を賭けの対象として見るようになったら、私たちは何を失うのか」という問いだ。スポーツが賭博に侵食され、ファンの信頼が揺らいだように、政治への信頼もまた、同じ運命を辿るかもしれない。そして、その先にあるのは、民主主義の「出口」なのか、それとも新たな参加の形なのか——このエピソードは、その答えを急ぐのではなく、問いを深く刻み込むことに成功している。