
何もしない議会が市場にとって素晴らしい理由 | E2359
- 中間選挙で民主党が下院・上院の両方を制した直後、市場は一晩の取引で2〜4%の下落を示唆していた。しかし翌朝には逆方向に動き、この「予想外の安定」をめぐってThis Wee...
- Wallach(Time BioVentures共同創業者・ゼネラルパートナー)、Elana Gold(Two Roads Capital、AI・インフラ・宇宙・ロボティ...
- 議論の核心は「何もしない議会は、悪いこともできない」というWallachのテーゼにある。彼は、資本市場が嫌うのは不確実性であり、政府が機能不全に陥っても戦争も関税合戦も始...
This Week in Startups / Jason Calacanis
中間選挙で民主党が下院・上院の両方を制した直後、市場は一晩の取引で2〜4%の下落を示唆していた。しかし翌朝には逆方向に動き、この「予想外の安定」をめぐってThis Week in StartupsのVCラウンドテーブルが白熱した議論を展開する。Jason Calacanis(ホスト、Launch Fund創業者)に加え、D.A. Wallach(Time BioVentures共同創業者・ゼネラルパートナー)、Elana Gold(Two Roads Capital、AI・インフラ・宇宙・ロボティクス・防衛・エネルギー領域のシンジケート運営)、Tomasz Tunguz(Theory Ventures創業者、2号ファンドを運用、シードからシリーズAで500万〜5,000万ドル規模の投資)という4人が、分裂政府がテックとベンチャーに何をもたらすかを読み解いた。
議論の核心は「何もしない議会は、悪いこともできない」というWallachのテーゼにある。彼は、資本市場が嫌うのは不確実性であり、政府が機能不全に陥っても戦争も関税合戦も始まらないなら、それはビジネスにとってむしろ好都合だと主張する。一方でデータセンターは両党にとって政治的な標的になりつつあり、NBCの出口調査では有権者の56%がAIとデータセンターを「極めて重要または重要な投票要因」と回答、民主党は共和党とビッグテック・データセンターを結びつける広告に1億ドル以上を投じたとされる。さらに2027年が大型M&Aの最後の窓になる可能性、AIの恩恵を受ける世代と雇用を奪われる若年層の「世代間戦争」の萌芽、Sequoiaのスカウトプログラム廃止、SPVの「ボイラールーム」化、HyperliquidやKalshiのパーペチュアル市場が既存資本市場を飲み込みかねない可能性まで、話題は多岐にわたった。
分裂政府とデータセンターという新たな政治標的
Jasonは冒頭、予測市場や世論調査を「間違っている」と罵っていた人々を念頭に置きつつ、実際には「ブルーウェーブ」が起き、民主党が上下両院を掌握したと振り返る。テキサス州でも民主党が驚くべき完勝を果たしたという。株式市場は一夜にして急落するかに見えたが、蓋を開ければ逆方向に動いた。Jasonの解釈は、戦争終結と石油市場の混乱収束への期待だ。これに対しWallachは、より構造的な見方を提示する。民主主義が機能し、政党間の揺り戻しが起きること自体が健全であり、一党支配や君主制を望まないのが本来の姿だとした上で、資本市場が嫌うのは不確実性であり、トランプが「カオスの代理人」として撒き散らす不確実性こそが長期金利を押し上げてきた要因だと論じた。分裂政府が何も決められないとしても、狂ったことは起きにくい。それがビジネスには良いというわけだ。
データセンターの問題は、この回で最も繰り返し論じられたテーマである。Wallachは、データセンターが政治的に「勝ち筋」になりつつあると指摘する。民主党は「データセンターを止める」というナラティブを掲げ、数年後には共和党側も同じことを言い出すかもしれない。政治家が「この素晴らしい技術を支援する。ただしあなたの仕事を奪いに来る」と演説するのは難しい。Marc Andreessen(a16z共同創業者)のように技術史を丹念に辿り、過去の技術波がいずれも雇用を奪わなかったと精緻に論証することは可能だが、それには本を5〜6冊読む必要があり、有権者には響きにくい、とWallachは語る。Jasonも、データセンターが地域に税収をもたらし、電気料金の値上げを保証し、割引を求めなくなっている現実と、政治的なナラティブとの乖離を嘆いた。
Elana Goldは、データセンター建設への逆風が現実になっても、根本的な電力不足という事実は変わらないと指摘する。Elon Muskが「2026年には電力が尽きる」と投稿したことに触れ、データセンターをいくら建てたくても電力そのものが足りなければ意味がないと論じた。だからこそ、洋上にノードを設置するPanthalassa、原子力分野のスタートアップ、消費電力を抑える新しいチップなど、制約を前提としたイノベーションが加速すると見る。Jasonはこれを「必要は発明の母」と要約し、電力が得られなければ使用量を減らすか、新たな電源を探すか、既存の電源を効率化するしかないと補足した。
防衛テックと2027年というM&Aの最後の窓
Jasonは、トランプ政権がテックコミュニティや「アメリカン・ダイナミズム」、防衛テック、データセンターを積極的に支援してきた点を挙げ、分裂政府のもとで政府が顧客である防衛・ロボティクス・ハードウェア企業への影響を問うた。Elanaは、データセンター建設が国家レベルから州レベルの争点に移行する可能性を指摘しつつ、電力制約という本質は変わらないと重ねて強調した。彼女のシンジケートはGeneral Compute、Panthalassa、Aalo Atomics、Exowattなど、電力・計算インフラのスタートアップに投資しており、規制が増えても「いかに少ない電力で計算するか」という技術競争はむしろ激化するとの見立てだ。
M&Aについては、JasonがLina Khan(前FTC委員長)体制下の4年間、多くの理にかなった買収が阻まれた苦い記憶を持ち出す。直近2年はトランプ政権下で買収機会が再び開いたが、民主党が2028年に勝てば再びM&A寒冬が訪れかねない。Tomasz Tunguzは、HSR(ハート・スコット・ロディノ法)審査やFTCの承認プロセスに18か月かかることを挙げ、2027年前半の6か月が実質的な窓だと分析する。MarvellがLumentumを1,150億ドルで買収しようとしている案件では、米国よりも中国の承認が律速段階になっているという具体例も示された。米国、EU(Draghi体制でもM&Aへの姿勢は不変)、中国のいずれかが承認のボトルネックになる前に取引を実行しなければならない。Jasonは「2027年が大型案件をまとめる最後の年になり、その後5年間M&Aが止まれば業界にとって厳しい」と危機感を示した。
ロボタクシー規制と「世代間戦争」の火種
Jasonは、北東部を中心に自動運転車やロボタクシー(Waymo、Tesla、Zoox、AV Rideなど)への反発が高まっており、全米に反自動運転の波が広がる「非ゼロの確率」があると警告する。自動運転は人命を救うが、雇用を守るという議論では勝利が難しいというのが彼の見立てだ。Wallachはこれに応じ、最終的には人間は「自分の貴重な人生に見合う仕事」に就くべきであり、ロボットが完璧に運転できるなら人間が運転するのは時間の浪費だと主張する。ただし、そのためには代替となるより良い仕事が必要だとも認める。
Wallachがこの回で最も強い問題提起を行ったのが「世代間戦争」である。彼は「冬が来る」という『ゲーム・オブ・スローンズ』の言葉を引いて、2032年に社会保障信託基金が破綻すると指摘する。Uber、Tesla、SpaceX、自動運転、データセンターの恩恵を受ける株主は高齢者であり、彼らはフロリダのボカラトンで優雅に暮らしながら証券口座を毎日眺めている。一方、22歳のUberドライバーは仕事を奪われる未来、住宅を買えない現実、あらゆる物価上昇に直面している。Wallachは、こうした若者が前回トランプに投票したかハリスに投票したかに関わらず、「誰も自分の未来を本気で気にかけていない」という思いで投票所に向かったと分析する。Jasonはこれを「よく言った」と絶賛し、民主党が反資本主義・反進歩の「デセル(減速主義者)」の立場に立てば、誰が雇用を生むのかというアイナ・ランド的な問いに直面すると指摘した。
Elanaは、自動運転がむしろ機会を広げるという楽観論を提示する。車を持てない、運転できない人々が、バスを2時間待つ代わりに20分のロボタクシーで安く職場に通えるようになる。中国などが技術を取り込んで前進する中で、米国だけが「自分で車を運転したいからロボットは要らない」と技術を止める選択は現実的でないと論じた。馬から車に移行したときも新たな機会が生まれたように、ブルーカラー職はむしろ成長していると彼女は付け加える。Tomaszは、1950年代のディズニーランドの「未来の家」のように、技術の肯定的な物語を語る存在が不在だと指摘した。
AIの恩恵をどう「普通の人」に届けるか
Jasonは、Metaが「Generation Tool Belt」プログラムで配管工や電気工を無料育成している例を挙げ、企業評判が最悪級のMetaでさえ評判回復のために動いていると紹介する。データセンターの特設ページで税収や雇用、地域への還元を訴える取り組みも進む。しかしJasonが本当に転換点になると見るのは、専業主婦や教師、中小企業主といった普通のアメリカ人がエージェントを使い始めたときだ。エージェントが「Netflixに二重課金しています。一つ解約しましょうか」と提案し、「配管工のあなたのメールを見ました。見積もり依頼が2件、うち1件は迷惑メールフォルダにありました。返信を書きましたが送りますか」と動く。Jason自身、Claude、Grokbot、Cursor、Lovable、ElevenLabsなどに年間4万ドルを費やし、2,000万ドル相当の価値を得ていると試算する。AngelListの代替プラットフォーム、アクセラレーター、ポッドキャスト事業の3つの内部プロジェクトは、それぞれ4〜5人・2年かかるはずが、開発者もデザイナーもなしに3か月で構築できたという。
Tomaszは、Museが最初の四半期で1,090万ダウンロード、日次アクティブ250万人という数字を挙げ、24か月後に米国人の3,000〜4,000万人が毎日使うようになれば供給能力を超えると予測する。彼は「米国はトークンの純輸入国か純輸出国か」という問いを立て、石油やディーゼルと同じように語るべきだと主張した。国内にトークンを生産する需要と意志がなければ、データセンターに関するナラティブは変わらないというのだ。
Wallachはより根本的な視点を提示する。毎月のクレジットカード明細を見れば、高額な支出は家賃、医療、学費、ベビーシッター、車といった「物理的なもの」ばかりだ。AIはビジネスの問題は解けるが、平均的な人の生活に重要な問題は公共政策を要するものが多い。だからこそAIの最も有用な使い方は、社会として党派性を減らし、政治を建設的にすることではないかと彼は提案する。実際、彼は投票所で100件もの選択肢を前に、Geminiに候補者名と自分の関心事を入力し「誰に投票すべきか教えてくれ」と尋ねたという。Jasonは「ミートレイヤー(人間の層)が必要だ」と応じ、Wallachは「未来はミートだ」と締めくくった。
Jasonはまた、Revere Roboticsの「Curbie」のようなゴミ箱に付ける小型ロボットや、Ziplineによるドローン配送(チップ不要、配達料1ドル、10〜15分)といった具体的な体験が人々の技術への印象を変えると論じた。Elanaもロボット掃除機やロボット芝刈り機を例に、家事をロボットが担う未来への期待を語った。
自動運転と保険、そしてAIの価格・マージン論争
TomaszはTeslaのFSD(完全自動運転)を絶賛し、雨のサンフランシスコでの帰宅時に2〜3回事故を回避したと語る。彼は保険業界の構造変化を予測する。自動運転車の事故率が大幅に下がれば、自動車保険は住宅購入時のタイトル保険(支払率2%未満)のような存在になるかもしれない。Waymoの安全性は93〜95%とされ、16歳の子どもがいる親なら、自分や他人を傷つけられない自動運転車に乗せたいと考えるはずだという。Jasonは「AIに反対する立場は、消費者が大きな価値を得るにつれて負け戦になる」と主張した。
Wallachはここで、シリコンバレーの「全員勝者」テーゼに疑問を投げかける。Nvidia、メモリメーカー、ネオクラウド、フロンティアラボのすべてが勝てるという議論は、エコシステム全体が独占的レントを抽出できるという前提に立つ。しかし80%の粗利益率は資本主義の正常な姿ではなく、本来は競争を呼び、マージンは押し下げられるはずだ。Lina Khanの名前を引いて、競争を促すかマージンを下げる仕組みが必要ではないかと問うた。
JasonはCanvaが従業員の22%(1,200人以上)を削減した例を挙げ、これこそAIが人々の支払うものを圧縮している証拠だと指摘する。5,000〜6,000人もの従業員がいること自体が驚きで、Bending Spoonsが運営していれば400人で済むのではないかと語る。Elanaは、サードパーティの推論に依存するビジネスは、顧客が低価格を求めればマージン圧縮に耐えなければならないと応じた。Canvaのビジネスの一部はAIラッパーであり、他のLLMに依存している以上、コスト削減は避けられない。これまで「モデルに何ができるか」が議論の中心だったが、今後は「大規模に展開するといくらかかるか」が問われるという。
Tomaszは反対の立場を取る。GPUコストは過去6か月で時間単価5ドルから13ドルへ120%上昇した(Blackwell 300)。2027年にはAIが足りなくなり、インターネットを帯域で買うように、AIを「質問数」と「応答速度」で買う時代になる。Jasonが「配給制になり、食べ放題は終わるのか」と問うと、Tomaszはその通りだと答えた。制約環境では誰もが最先端AIを買えるわけではなく、10万ドルかけてバイブコーディングする代わりに3万ドルで済ませるようになり、結果としてアプリ層が復活するという。Googleデータセンター責任者によれば電力あたりの知能は年2倍、コストは400分の1になったが、来年は約81ギガワットの供給に対し、モデル訓練に60%が使われ、3〜5億ドル規模の訓練実行が続けば推論に回る余裕はない。Vera Rubinは2倍の生産性だが、需要は年200%以上で伸びている。
Wallachが「ならばなぜ価格を上げないのか」と問うと、TomaszはAnthropicのS-1で粗利益率が約81〜82%(公開ソフトウェア企業は約71%)だと示しつつ、価格競争が起きていると説明する。OpenAIはLunaで50%、次いで80%の値下げをし、オープンソースモデルはクローズドソースより80〜85%安い。製薬会社なら特許で17年商業化できるが、最先端AIラボの猶予は41日で、その間に次のモデルが出ればシェアが動く。だから41日で健全なマージンを稼ぎ、次のモデル開発を賄う必要がある。Wallachが「定常状態のマージンは」と重ねて問うと、TomaszはAWSの営業利益率35〜36%を例に、コモディティでも競争があれば健全なビジネスになると応じた。ただしNvidiaなどハード企業については、倉庫に眠るGPUに電力を供給できず、米国内で配備できなくなれば予約が頭打ちになり、株価に地震が起きると警告した。
ローカル推論、Sequoiaの再編、そしてアリコーン
Jasonは1万2,000ドルのMac Studioを注文し、ローカルモデルを走らせると語る。1980年代のPC XTやATが4,000〜5,000ドル(現在のドルで1万5,000ドル相当)だったことを引き、ローカル計算の復権を予感する。TomaszはTheory Venturesが投資するOllama(約1,000万人がローカル推論を利用)に触れ、Stanfordの研究で非コーダーのAI作業の90%はローカルモデルで実行可能とされ、普段はローカル、必要なときだけクラウドにスパイクする形がコスト維持の鍵になると述べた。Jasonは全従業員に2万ドル相当のマシンを与えても、現在の1人あたり年2,000ドルの支出と5年後に半額で売却すれば相殺されると計算する。Wallachは「知能は無料になりたがっているが、ハードウェアは無料にならない」とまとめ、Elon Muskがロケット技術者をデータセンター建設の現場監督に回しているのは過渡期の現象で、ASMLの装置を組み立てる人材こそ長期的に耐久性のあるビジネスだと論じた。
Sequoiaの再編については、Jasonが自身が最初のスカウトだった経緯を語る。Roelof Bothaが去った後、ロンドンオフィス閉鎖、バッチアクセラレーター「Arc」の終了、スカウトプログラムの廃止、Sequoia Capital Fundの複雑さの解消、アーリーとグロースの統合、40年来の月曜朝のパートナー会議の廃止、そして100億ドルの新ファンド調達が発表された。Tomaszはアーリーとグロースの統合を賢明と評価する。10年前の「Tシャツサイズ」のラウンド区分は意味を失い、NeoLab出身の博士や研究者チームは最初のマイルストーンに3〜5億ドルを要することがあり、バイオテックと同じ構造になっているからだ。Elanaは、VCファンドがアクセラレーターやスカウトファンドを抱える複雑なビジネスになりすぎたと指摘し、スカウト廃止の裏には「スカウト経由の案件がポートフォリオの中で最良ではなかった」というデータがあったのではないかと推測した。Jasonは、スカウトプログラムが「シグナリング問題」への対処だったと説明する。シードに参加しながら次のラウンドに出なければ会社に損害を与えるため、スカウトには制御不能な形で書かせ、ファンドが資金を出す仕組みだった。それが業界全体に模倣され、原点のSequoiaがやめるという皮肉になったという。
Jasonは自身の「バーベル戦略」を披露する。シンジケートメンバーがZiplineやTravis Kalanickの新会社Atomsへの参加を求めたため、6社に打診して全て承諾を得た(WaymoだけはGoogleが全額確保し不成立)。Wallachはこれを「次のユニコーンはアリコーンだ」というJasonの前週の発言と結びつける。2〜3人で週末にAIでプロダクトを作り、月10万〜50万ドルの収益を上げ、ラーメン資金もVCも要らない企業が続出している。彼らはVCを必要とせず、友人ネットワークで資金調達する。Wallachは、Sequoiaの発表は100億ドルという数字を除けば賢明だが、100億ドルでは歴史的な高リターンは望めないと指摘する。そして、次世代の創業者がファームを公開市場に出して資産を現金化する動き(Blackstone、Ares、Apollo、Pershing Squareの例)が今後VCにも及ぶと予測し、その結果として小規模で機敏なファンドに「アリコーン級」の案件を獲るチャンスが生まれると論じた。TomaszはTheory Venturesが3年で8億ドル弱を調達し、1ファンドあたり約10社に投資、フォワードデプロイされたチームがGTM機能を構築するモデルだと説明した。
SPVのボイラールーム、アクリディテッド投資家規制、トークン化市場
Elanaは、直近のシンジケートではセカンダリーよりもプライマリー中心だが、市場では「次のラウンドに参加する権利」を10〜15%のディスカウント付きで得るためのSAFE(簡易将来転換契約)が横行していると語る。クローズから2週間後に次のラウンドがいつになるか分からず、バリュエーションも不明なままリスクを取るLPが増えているという。Jasonは「人生は短い、プロラタと基本情報の権利がない案件はやらない」と明言する。彼が問題視するのは、VCが価値を作った後の「公開前ボイラールーム」だ。会社を応援し創業者を知る投資家ではなく、10%の手数料を取って回転させるトレーダー精神が業界に持ち込まれ、SPVが会社に認識されるかどうかも分からないまま取引が積み重なる。
Wallachはこれを「フリーランスの投資銀行業」と表現する。無免許のブローカーが手数料で稼ぐ新産業が、公開市場とプライベート市場の隙間を埋める形で生まれた。彼の本質的な批判は、公開市場システムの失敗に向かう。本来なら素晴らしい成長企業はもっと早く上場し、平均的な米国の貯蓄者がPalantirやSpaceXの成長に参加して退職口座を増やせたはずだ。しかし創業者がデュアルクラス株式で完全な支配権を持ち、資金はどこでも調達できるため、上場する必要がない。Wallachは自身もこうした取引に関わったと認めつつ、「より良いシステムではない」と断言する。Jasonはアクリディテッド投資家(適格投資家)規制の撤廃を主張する。年収15万〜20万ドル以下の人でも講座を受けて「洗練された投資家」になれるようにし、1,000人、1万人のメンバーが1,000ドルずつ出資できるVCを作ればいい。UberドライバーがUberに、HR担当者がLinkedInに投資できる世界だという。Elanaは、人生の貯蓄をギャンブルに使うことはできてもスタートアップに投資できない矛盾、さらに公開調達では「適格購入者」(250万ドル要件)が必要になる矛盾を指摘した。Tomaszは、すべての米国人がAnthropicのシリーズD以降に投資できていれば、「通りのデータセンターが子どもの大学資金を払っている」というナラティブになったはずだと述べた。
Wallachは、資産運用会社がETFによるアクティブ運用のコモディティ化で2%の手数料を取れなくなり、プライベート資産を401kに押し込もうとしていると批判する。「50億ドル企業が8億ドルの収益を上げているのに、なぜ上場できないのか。何を恐れているのか」と問うた。Tomaszは規制上の理由を2つ挙げる。10年前、収益1億ドルの企業のIPO費用は2,500万ドルで、プライベート取引の50〜60万ドルと比べて過大だった。もう一つはJOBS法が株主数の上限を大幅に緩和したことだ。結果として公開企業数は大きく減少し、プライベートクレジットは4兆ドル規模に膨張した。透明性は必要だが、過去と同じ規制をすれば同じ問題を再生産すると警告する。
WallachはHyperliquidを持ち出す。分散型の市場参加者が合成証券を作り、非公開企業のバリュエーションや個別の臨床試験結果にさえ賭けられる。SPVのブローカーに頼らず、パーミッションレスにPalantirやAnthropicに賭けられる世界だ。Tomaszはトークン化市場がAIより速く成長する世界最速の技術市場であり、米国外の投資家が米国株を、米国人が韓国株(SK Hynixなど)を24時間取引できるようにすると説明する。オプションはギリシャ文字だらけで難解だが、パーペチュアル(無期限先物)はシンプルで、ブラジル選挙で経済をショートしたいときなどに使いやすい。世界の大手銀行が公共・私募の株式とクレジットのトークン化に aggressively に動いているという。JasonがKalshiのパーペチュアル市場を画面に映すと、価格ティッカーがリアルタイムで動き、最大7倍近いレバレッジをかけられる。Tomaszは、IPOの2〜3週間前に価格発見が起き、小売投資家が「このビジネスの適正評価は17.5億ドルか20億ドルか」と賭けられるようになると述べた。Jasonは「コカインを通り越してブレイキング・バッドのブルーメスだ」と表現し、韓国での人気とレバレッジ中毒を警告した。Tomaszはデリバティブ市場が原資産の5〜10倍の規模になり、かえって原資産の価格発見を健全にすると擁護する。Wallachは最後に、チャーリー・マンガーの「世界を動かすのは強欲ではなく嫉妬だ」という言葉を引き、Anthropicの創業者や昨年採用された従業員が得ている富を見て、Postmatesの配達員が3倍レバレッジのETFに飛びつく心理を説明した。テック業界が「3年で一生分を稼げ、その後は経済階層に永遠に固定される」と言ってきたことが、無謀なリスクテイクを生んでいると締めくくった。
結びに
この回を貫くのは「不確実性のコスト」という一本の線である。分裂政府が何も決められないことは、戦争も関税も起きないという意味で市場にはプラスだが、データセンターへの政治的敵意、2027年というM&Aの期限、世代間の富の断絶という3つの構造問題は、どれも「何もしない議会」では解決できない。Jasonが繰り返した「AIの恩恵を普通の人に届ける物語が不在」という指摘と、Wallachの「AIが政治を賢くするインフラになればいい」という希望は、この回の最も深い問題提起だった。投資家にとっては、アリコーン化する創業者、SPVのボイラールーム化、トークン化市場の台頭という3つの構造変化が、従来のVCモデルの前提を静かに掘り崩していることが印象に残る。100億ドルのSequoiaと、週末に月10万ドルを稼ぐ2人組の創業者が同じ土俵で語られる時代の非対称性こそ、このエピソードが記録した2025年11月の空気である。
要点
- 分裂政府は「何も悪いことをしない」という理由で市場にプラス。資本市場が嫌うのは不確実性であり、トランプのカオスが長期金利を押し上げてきたとWallachは分析した。
- NBC出口調査で有権者の56%がAIとデータセンターを重要投票要因と回答。民主党は共和党とビッグテックを結びつける広告に1億ドル以上を投じ、データセンターは両党の政治標的になった。
- 2027年前半が大型M&Aの実質的な最後の窓。HSR審査に18か月かかり、MarvellのLumentum買収(1,150億ドル)では中国の承認が律速段階になっている。
- Wallachは2032年の社会保障信託基金破綻を引き、AIの恩恵を受ける高齢株主と仕事を奪われる若年層の「世代間戦争」を警告。22歳のUberドライバーの絶望が投票行動に表れたと論じた。
- Canvaの22%(1,200人以上)削減はAIによるコスト圧縮の象徴。Jasonは年間4万ドルのAI支出で2,000万ドル相当の価値を得ていると主張する一方、TomaszはGPUコストが6か月で120%上昇し2027年にはAIが配給制になると反論した。
- Sequoiaはロンドンオフィス、Arc、スカウトプログラムを廃止しアーリーとグロースを統合、100億ドルを調達。Jasonは自身が最初のスカウトだった経緯を語り、Tomaszはラウンド区分の崩壊を統合の理由に挙げた。
- アクリディテッド投資家規制の撤廃をJasonが主張。講座を受けた中間層が1,000ドル単位でVCに参加できる世界を提唱し、Wallachは企業の早期上場とブロードな株主資本主義を求めた。
- HyperliquidやKalshiのパーペチュアル市場が既存資本市場を飲み込みかねない。IPO前に価格発見が起き、最大7倍のレバレッジが可能になる一方、Wallachは「3年で一生分を稼げ」というナラティブが無謀なリスクテイクを生んでいると警告した。