
#28 アドレナリン、持久力、展望:Ben Proebsterとパラグライディング&ハイク&フライ
- 概要 このエピソードでは、ホストのSarahがパラグライダーとHike&FlyのアスリートBen Proebsterを迎え、免許取得が「入場券」に過ぎず、その後に真の学び...
- [0:00] パラグライダーとの出会いと免許取得への道 Benがパラグライダーを始めたきっかけは、30歳の誕生日に友人から贈られた体験コースだった。それまでこのスポーツに...
- 免許取得のプロセスは、思ったほど難しくはないとBenは説明する。まずは「基礎訓練」として、高低差約30メートルの小さな丘で離陸と着陸の反復練習を行う。ここでのフライト時間...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
The LIRU Mentality - アスリート | トレーニング | 栄養 | ラボ診断 / Sarah Hammes
概要
このエピソードでは、ホストのSarahがパラグライダーとHike&FlyのアスリートBen Proebsterを迎え、免許取得が「入場券」に過ぎず、その後に真の学びが始まるという核心的なテーマを探求する。1000回以上のフライトを経験したBenは、トレイルランニング、登山、そしてパラグライディングを融合させたHike&Flyというスポーツの魅力と、そこに必要な身体的・精神的準備について語る。会話は、初心者から熟練パイロットへの成長過程、リスク管理、競技としてのHike&Fly、そしてアウトドアでの経験がもたらす精神的な充足感まで、多岐にわたる。会話の雰囲気は情熱的でありながらも実践的で、Benの謙虚で思慮深い人柄がにじみ出ている。
パラグライダーとの出会いと免許取得への道
Benがパラグライダーを始めたきっかけは、30歳の誕生日に友人から贈られた体験コースだった。それまでこのスポーツに特に興味はなかったというが、2日間のコースで一気に魅了された。初日は草地で風と遊びながらスクリーンを扱う練習をし、2日目には小さな斜面で初めて「地面から離れる」感覚を味わった。その瞬間から「もう止まらなかった」とBenは振り返る。
免許取得のプロセスは、思ったほど難しくはないとBenは説明する。まずは「基礎訓練」として、高低差約30メートルの小さな丘で離陸と着陸の反復練習を行う。ここでのフライト時間はわずか5秒程度で、スクリーンを頭上に上げる技術、ブレーキ操作の感覚を養う。教官が安全と判断すれば、次は「高度飛行コース」に進む。ここでは最低500メートルの高低差がある山を使用し、2名の教官が無線でサポートする。離陸地点と着陸地点にそれぞれ教官が立ち、安全を確保する。
必要なのは合計40回のフライトに加え、1回の試験飛行、そして学科試験である。期間は天候に大きく左右される。Benの場合、基礎訓練に約1週間、高度訓練に1週間、さらに週末を2回使って40回のフライトを完了した。グループの規模は10〜12名程度で、高度訓練に入ると各自のペースで進むため、自然と流れができる。
Benはこのプロセスを自動車教習所に例える。「免許を取ったら、そこからが本当の運転の学びだと教わった。パラグライダーも全く同じで、免許は入場券に過ぎない」と語る。免許取得後は、教官の指示なしで自分だけで判断しなければならない。天候の読み方、適切な飛行エリアの選択、そして「今日は飛ばない」という決断も含めて、すべてが自己責任となる。
飛行技術と気象の基礎:サーマルとハングソアリング
パラグライダーが空中に留まる仕組みは、主に2つの原理に基づく。1つ目は「ハングソアリング」で、風が山の斜面に沿って上昇する力を利用するものだ。風は山を通過できないため、斜面に沿って上方へ押し上げられる。この垂直方向の成分をパイロットは利用する。2つ目は「サーマル(熱上昇気流)」で、暖められた空気が上昇する現象である。これは熱気球と同じ原理で、地面が太陽で暖められると、その上の空気が温められて上昇気流が発生する。
サーマルが発生しやすい場所には地理的な傾向がある。南向きの斜面は日中の日射を最も受けやすく、朝は東斜面、夕方は西斜面が有利となる。岩肌の斜面は森林よりも暖まりやすく、サーマルが発生しやすい。パイロットはこの上昇気流の中で旋回し、高度を稼ぐ。上昇気流の頂点にはしばしば小さな雲(積雲)が形成され、これが最もわかりやすい指標となる。
Benは「理論ではわかっていても、実際にサーマルを見つけて利用するには経験が不可欠」と強調する。上昇気流は周期的に発生するため、タイミングを逃すと利用できないことも多い。
テクノロジーと装備:バリオメーターからGPSまで
飛行に欠かせないツールとして、Benは「バリオメーター」を挙げる。これは気圧計の一種で、空気の上昇・下降を敏感に検知し、音で知らせる。上昇時にはピッチが高くなる音、下降時には連続した低い音が鳴る。パイロットはこの音を頼りにサーマルの中心を探す。
短時間のフライト(例:夕方の「Feierabendflug」)ではバリオメーターさえも必要ないが、長距離飛行ではより高度なテクノロジーが使われる。多くのパイロットはスマートフォンとBluetooth接続のバリオメーターを組み合わせ、GPSデータと連携させたアプリを使用する。これにより、現在位置、高度、空域情報、そして現在の高度から滑空して到達可能な次の斜面までが表示される。
さらに、同じアプリを使用するパイロット同士で位置情報や飛行軌跡を共有することも可能で、他のパイロットがどこで上昇気流を見つけたかを参考にできる。遠隔地での飛行に備え、Benは衛星トラッカーも携帯する。アルプス前山地域でも通信圏外になる場所は多く、安全のためだ。
Hike&Flyの世界:登山と飛行の融合
BenがHike&Flyを本格的に始めたのは、意外にもコロナ禍がきっかけだった。それまでは主にゴンドラを使って山頂まで上がっていた。ゴンドラを使えば1日に8回のフライトが可能で、飛行技術の向上には効率的だった。しかし、コロナでゴンドラが使えなくなると、「飛びたいなら自分で登るしかない」という状況になった。
Hike&Flyの装備は、通常のパラグライダー装備と比較すると大幅に軽量化される。初心者用の標準装備は、スクリーン約5kg、ハーネス約3kg、予備パラシュート(レスキュー)約1.5kg、その他を合わせて合計10〜12kg程度だ。一方、Benの競技用装備はわずか5.5kgまで軽量化されている。さらに「ミニウイング」と呼ばれる超軽量スクリーンでは、わずか1.1kgというものもある。これは15リットルのトレイルランニング用ベストに収まるサイズだ。
ただし、軽量化には飛行性能のトレードオフが伴う。超軽量スクリーンは「太陽の光が透けて見えるほど薄い」が、安全基準はクリアしている。Benは「まるでロープ数本でぶら下がっているような感覚」と表現しつつも、メーカーの負荷テストを信頼していると語る。
Hike&Flyの魅力は、その自由度の高さにある。ゴンドラを使った穏やかなフライトから、一日中かけて長距離を飛ぶストレートフライト、さらにはクライミングと組み合わせた「クライム&フライ」まで、自分の好みに合わせてスタイルを選べる。
Hike&Fly競技:戦略とコミュニティ
Benが初めてHike&Flyの競技に参加したのは、約2〜3年前の「Wonderbird」シリーズだった。競技の形式は以下の通りだ。前日にコースが発表され、複数の「ウェイポイント(通過点)」が設定される。全員が谷底のスタート地点から一斉にスタートし、最初のウェイポイントは山頂の離陸地点。つまり、まず全員が山を登る。その後のウェイポイントは、地上でタッチする必要があるものや、空中で通過するものがある。
競技の鍵を握るのは、飛行条件の読みと戦略的判断だ。飛行は徒歩よりはるかに速いため、いかに効率的にサーマルを見つけ、高度を維持しながら次のウェイポイントへ向かうかが勝負を分ける。Benは「競技で一番学べるのは、他のパイロットの動きを観察できること」と語る。空気は目に見えないため、他のスクリーンや鳥の動きが貴重な情報源となる。50人ものパイロットが同時に飛ぶ競技では、誰がどのラインを選び、なぜ成功したか(あるいは失敗したか)を学ぶ絶好の機会となる。
競技の雰囲気は「友好的なコミュニティ」だとBenは言う。順位争いはあるものの、厳しい競争というよりは、同じ情熱を持つ仲間との交流の場という側面が強い。ただし、週末の混雑した飛行エリアでは、時として「メイヘム(大混乱)」状態になることもある。サーマル内での旋回方向の不一致など、交通ルールの遵守が重要になる。
リスク管理と精神的タフネス
Benが最も印象に残っている競技の一つは、メルツ(Merz)で開催された大会だ。このレースでは、2ラウンドの形式で行われ、1ラウンド目は比較的穏やかな条件だったが、2ラウンド目は状況が一変した。谷の東側から西側へ移動した際、風の向きが予想と大きく異なり、非常に乱気流の激しい「リー(風下)側」を飛行することになった。
Benは空気の流れを川に例える。穏やかなイザール川が、大雨の後には激しい流れに変わるように、空気も地形の影響で乱れる。岩の後ろにできる水流の渦と同様、山の風下側には乱気流が発生する。この日はまさに「洗濯機の中」のような状態だったという。
通常のフライトであれば、Benは迷わずそのエリアから離脱しただろう。しかし競技では、他のパイロットも同じ条件で飛んでいるという事実が判断に影響を与える。「他の人も飛んでいるから大丈夫だろう」という心理が働くのだ。この時は、前方を飛んでいたパイロットのスクリーンが大きく折りたたまれる「クラッパー(翼端の折り畳み)」が発生し、Benのアドレナリンは急上昇した。幸いにも無事だったが、同じコースをもう一周しなければならないことに「全くやる気が起きなかった」とBenは振り返る。
Benは「恐怖」ではなく「緊張」という言葉を使う。重要なのは、状況を客観的に評価する能力だ。彼の対処法は、まず自分に「メンタルビンタ」を浴びせ、現状を冷静に分析することだ。「少し揺れているだけで、本質的に危険なのか?それとも本当に深刻な状況なのか?」と自問する。そして、身体の緊張に気づいたら、意識的にリラックスし、深呼吸する。時には歌を歌うこともあるという。
安全訓練と技術の習得
パラグライダーにおける事故の多くは、空中ではなく離陸時と着陸時に発生する。Benは「地上で怪我をするのであって、空中で怪我をすることは基本的にない」と語る。特に風が強く変化しやすい条件下では、離陸技術の確かさが生死を分ける。
このため、Benは年に一度は「安全訓練」に参加することを習慣としている。最も有名な訓練場所はガルダ湖のモンテ・バルドで、湖上に約1,200メートルの高度を確保できる。パイロットは救命胴衣を着用し、教官の無線指導のもと、スクリーンの折り畳み(クラッパー)や、ラインが絡まった場合の対処法などを実際に体験する。
Benは「一度訓練しただけでは効果は薄い。繰り返し練習して初めて、緊急時に体が反応するようになる」と強調する。彼は「同じ動作を約1,000回繰り返さなければ、本当に深く身体に染み込まない」と述べ、トレイルランニングや他のスポーツと同様、反復練習の重要性を説く。
トレイルランニングとバックヤードウルトラ
Benは元々スポーツとは無縁の生活を送っていたが、パラグライダーを始めてから山を登る必要に迫られ、自然とトレイルランニングに目覚めた。彼は「飛行に適さない天候の日でも外に出たい」という理由から、ランニングを始めたという。
2023年9月には、ミュンヘンで開催された「バックヤードウルトラ」に参加した。この競技の形式は独特で、6.7kmのコースを毎正時にスタートする。各ラウンドは好きなペースで走ってよく、正時までに戻れば次のラウンドに進める。最後の一人が立っているまで続く「ラストマン・スタンディング」方式だ。
Benは12時間、80kmを走破したが、目標としていた100kmには届かなかった。彼は「フラットな地形でのランニングに慣れていなかった」ことと、消化器系の不調を理由に挙げる。優勝者は200km以上を走破したという。Benは「24時間走るという当初の幻想は5ラウンド目で消えた」と笑いながら振り返る。それでも80kmという距離は、非ランナーから見れば十分に驚異的な成果だ。
写真と冒険:パラグライダーで叶えたい夢
Benは飛行中に360度カメラを携帯することが多い。このカメラは全方向を同時に撮影するため、飛行に集中しながら後から好きなアングルを選べるという利点がある。
彼の「バケットリスト」の最上位にあるのは、アルプス縦断飛行だ。具体的には、自宅から出発し、オッツタールを経由してアルプス主脈を越え、ドロミテまで到達するルート。Benはこれを「ピッツァツアー」と呼ぶ。このフライトが可能な日は、シーズン中に5日程度しかないという。家族がいるため、時間的な制約も大きいが、「いつか必ず実現したい」と語る。
日常の幸福:アウトドアがもたらすマインドセット
エピソードの最後に、Benは「より幸せになるためのトップティップ」として、アウトドアでの「グラウンディング(地に足をつけること)」の重要性を語る。日常生活では、内外のプレッシャーに押され、自動操縦モードで一日を過ごしてしまいがちだ。しかし、山の頂上に立ち、美しい景色を眺めるとき、彼は「今、ここ」に意識を向けることができる。
「自分は健康で、ここに立てている。家族も健康だ。美味しい食べ物があり、住む家もある。これらは当たり前ではない」とBenは言う。この感謝の気持ちが、その後の一日をより豊かなものに変えるという。彼は「たとえ億万長者になっても、山の頂上では『自分が世界で最も裕福な人間だ』と感じるだろう」と締めくくった。
まとめ
このエピソードが特に印象的なのは、Ben ProebsterがパラグライダーとHike&Flyを通じて、単なるスポーツ技術以上のものを語っている点だ。彼の言葉からは、リスクと向き合い、自分の限界を知り、そして自然の中で「今ここ」に存在することの喜びが伝わってくる。免許取得が「入場券」に過ぎないという比喩は、あらゆるスキル習得に通じる真理だ。また、競技での経験や安全訓練への真摯な姿勢は、趣味を超えたプロフェッショナリズムを感じさせる。このエピソードは、アウトドア愛好家だけでなく、自分のコンフォートゾーンを広げたいと考えるすべての人にとって、実践的で示唆に富んだ内容となっている。
要点
- パラグライダーの免許取得は「入場券」に過ぎず、真の学びと経験はその後1000回以上のフライトを通じて積み重ねられる。
- Hike&Flyは登山とパラグライディングを融合させたスポーツで、装備は標準で10〜12kg、競技用では5.5kgまで軽量化可能。
- 飛行の原理は「ハングソアリング(斜面風)」と「サーマル(熱上昇気流)」の2つで、サーマルの発見にはバリオメーターの音と経験が不可欠。
- Hike&Fly競技では、戦略的判断と他のパイロットの動きの観察が重要で、コミュニティは友好的だが週末の混雑時には注意が必要。
- リスク管理の要は、状況を客観的に評価する「メンタルビンタ」と、年に一度の安全訓練による技術の反復練習。
- トレイルランニングは飛行に適さない日の代替手段として始まり、バックヤードウルトラでは80kmを走破するまでに成長。
- アウトドアでの「グラウンディング」、すなわち「今ここ」に意識を向け感謝することで、日常生活の質が向上する。